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ノートルダム寺院。私は"GRANDE DAME(グランドダム)"(貴婦人)と呼んでいますけれど、この魅力的な教会はいつも私の心をとらえて離しませんでした。すぐ近くに住んでいたおかげで、ますます好きになりました。美しさ、エレガンス、洗練されたその姿に、私はずっと夢中だったのです。特に気に入っているのは、貴婦人の横顔。セーヌ川沿いのノートルダムの、他に比べようのない美しい姿を見ながら河岸を散策するひとときの、夢のような幸せ……。ジャン23世小広場Square
Jean―XXIIIから眺める後ろ姿も好き。ただし、観光客の群れがいないときに限ります。ノートルダムの後陣から放射状に何本も延びているのは、ゴシック建築特有の飛び梁。何という、繊細で優美な眺めでしょうか!
美は暮らしの本質であり、生きてゆく上で一番大切なもの。日常生活の中で美に触れるということは、私にとってはとても大事なことです。早起きのせいであまり気分のすぐれない朝でも、ノートルダムがふと目にとまった瞬間、そしてその彼方に建つルーブルや、いくつもの橋の連なり、セーヌ川に映る空……そういう景色を目にすると、すっきりと晴れやかな気分になれたことを思い出します。とても豊かな、そう、何物にも替え難い内なる豊かさ、とでも言いましょうか、そういう気持ちになれるのです。美が私の中にある感性と活力を呼び覚ましてくれる。パリのはかりしれない魅力に、ただもう圧倒される私でした。もちろん、パリにも他の大都市と同じように問題はたくさんありますし、人々もそれぞれ日常生活の悩みを山ほどかかえています。けれど、世界で一番美しい都市の一つ、パリで生きるということは、やはりそこで暮らす人々の個性に大きく影響せざるを得ないでしょう。パリが好きでたまらなくて、もうパリなしでは生きられなくなる。麻薬なんです、パリは。だからここに住んだことのある人は、いつか必ず戻ってきます。まるで磁石に引きつけられるように。私みたいに外国生活を愛する人間でさえも、パリなしではいられないのです。
バカロレア(大学入学資格試験)に合格したあと、独立心旺盛な私は一人暮しを始めることにしました。シテ島の花の河岸Quai aux Fleurs(ケーオフルール)(私はここがとても気に入りました。すごく素敵な名前だと思いませんか)に小さなかわいい部屋をみつけました。7階(日本式に数えると8階ですね)の高みにある本当に小さな部屋でしたが、実はすばらしい宝物を秘めていたのです。それは、窓を開くといつでもノートルダムの塔を眺められたこと。部屋に帰って来るとすぐに窓を開け、この美しい2本の塔をじっと見ながら、楽しかったことや悲しかったことを心の中で塔に語りかけるのが日課でした。このすばらしい眺めに魅せられたあまり、何時間も夢見心地でいたことさえしばしばです。たいていは電話のベルで現実に引き戻されてしまいましたが……。塔には毎日のように、大勢の観光客がひしめいていました。パリの街並みを見渡そうとして、せっせと階段を登る人たち。窓にもたれた私に気がついて、私の特権を羨ましく思った人たちもいたことでしょう。私自身は一度も塔に登ってみたことはありません。離れた場所から見る塔の謎めいたイメージを壊したくなかったのです。ほとんどのパリジャンは、エッフェル塔に登ったこともないのですよ。
結局ノートルダム――私は"Belle Dame(ベルダム)"とも呼んでいました――の近くに2年間住みました。その間ずっと、Belle Dame(Grande
Dame)は私と共にいたような気がしますし、今でも深い関係にあります。私にとってはとても大切な存在。その姿を眼にすると、ドキドキしてしまう。どんなに長い間眺めていても、決して飽きることはありません。そばで過ごした2年間、私を見守っていてくれたBelle
Dame(Grande Dame)は、私の人生の重要な一時期の象徴なのです。鐘の音もすごく好きでした。はじめはうるさくて我慢ができなかったけれど、慣れてくるにつれてその"音楽"がだんだん好きになっていったのです(まあ、どちらにしても、私には選択権がなかった訳ですが)。引っ越した時、鐘の音が聞こえてこないのがとても奇妙な感じでした。何だか物足りなくて……。
外国人の友人(ドイツ人、イタリア人、イギリス人……)たちが私を訪ねてくるたびに、高貴な美しい隣人、ノートルダムを見せることを誇らしく思ったものです。そして今、読者の皆さんがこの次パリにいらっしゃった時に、ノートルダムを今までとは違った角度から見られるように、そう思ってこのエッセイを書いています。
私はパリを心から愛しています。その建築的な美しさゆえに。その他の様々な魅力ゆえに。だから皆さんに、そう、あなたに私のパリをカルチェquartier(地区)ごとに、そこの住人も何人か含めてご紹介できることを嬉しく思っていますし、あなたと感動を共にできることを楽しみにしています。あなたも必ず、このすばらしい街のとりこになりますよ。もしも、まだそうなっていなければ、の話ですが……。
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